2013/05/01
長く続く咳
最近は咳で困られている患者さんが多くなってきました。せき(咳嗽〈がいそう〉)は、のどから肺へつながる「気道」内の異物や分泌物を外に出す防御反応です。せきが続く原因は感染症が多いが、普通の風邪であれば3週間程度でほとんど軽快します。これが8週間以上続き、問診や胸の聴診、エックス線などの一般的な検査では原因が分からない場合、「慢性咳嗽」と呼びます。慢性咳嗽を招く主な疾患は大きく3つあります。
最も多いのが「せきぜんそく」。慢性的なアレルギー性の炎症で気管支が収縮しやすくなった状態で、一般的なぜんそくと違い、呼吸困難や独特なゼーゼーという音がない。しかし、治療しないと約3割が本格的なぜんそくに移行するとされる。治療は吸入ステロイドで炎症を抑えます。
せきぜんそくと違い、気道の表面が過敏になってせきが続くものを「アトピー咳嗽」と呼ぶ。抗ヒスタミン剤というアレルギー治療薬と、吸入ステロイドで治療する。ぜんそくに移行することはないので、せきが治まれば薬をやめられます。
3つ目は、「副鼻腔(ふくびくう)気管支症候群」。鼻の奥の方にある空洞(副鼻腔)の炎症と合併した気管支炎で、マクロライドという抗菌薬が有効です。一方「慢性気管支炎」という病名もよく使われるが、これはたばこや大気汚染が原因の炎症のことです。薬より、禁煙など、原因となる刺激物との接触を断つことで改善します。
このような咳には咳止めは効果ありません。市販の咳止めや病院で咳止めだけを処方されて咳が治らないときは是非専門医にご相談下さい。
黄砂が運ぶ微生物 日本や太平洋に飛来、健康にも影響
黄砂シーズン本番となりました。都市を包み込む黄砂は視界を悪くして飛行機など交通に影響を与え、屋根や車に降り積もり洗濯物を汚します。ぜんそくや花粉症を悪化させることが明らかになっています。黄砂は風に乗り、ときに太平洋を横断して北米大陸に到達します。
近年、黄砂に知られざる事実が隠されていることがわかってきました。黄砂は指でつまむのも難しいが、微生物、例えば数マイクロ(マイクロは100万分の1)メートルの細菌にとっては、ボートほどの大きさになる。細菌の100分の1くらいのウイルスには客船ほどのサイズだ。金沢大学の研究グループなどの調査によると、様々な微生物が黄砂に乗り、中国内陸から日本まではるばる4000キロメートルも旅していることになります。黄砂に付着した微生物などたかがしれていると思われるかもしれないが、量が半端ではない。中国内陸の乾燥地帯で舞い上げられる黄砂の総量は年間数億トン、日本まで飛んでくるものでも数百万トンと推定されています。おびただしい数の微生物が海を渡ってきていることになる。その中には有益な微生物もいるが、アレルギーや食中毒の原因となる細菌もいることがわかってきました。中国内陸では砂漠化が進んでおり、黄砂の発生量が増せば、こうした効果もより大きく出るかもしれない。現時点で日本で高濃度で観測されているのは、直径が2.5マイクロ(マイクロは100万分の1)メートル以下の微小粒子状物質(PM2.5)だけ。日本への影響がピークを迎える3~6月ごろは、様々な汚染物質が日本へ来るようになる。西よりの風が強まって移動性の高気圧と低気圧が交互に来るようになり、PM2.5のほかに光化学スモッグの原因となるオキシダント(オゾン)や窒素酸化物(NOx)、ぜんそくを引き起こす浮遊粒子状物質(SPM)、黄砂なども飛んで来る。これらの汚染物質によって子どものぜんそくや脳梗塞が増えるという調査結果があります。PM2.5の一部は血管にも入り込む。血管に入った黄砂による炎症反応で内壁の塊がはがれて脳の血管が詰まり梗塞を起こすといわれています。
黄砂そのものはアレルギーの原因ではありませんが、含有するシリカや微生物が過剰な免疫反応を招いているのではないかといわれています。健康な人はそれほど気にする必要はないが、飛散が多いときは外出するときにはマスクを着用したい。