2020/01/07
あけましておめでとうございます。今年もより良い治療ができるよう尽力いたします。
患者様のためになる情報も発信していきますのでよろしくお願いいたします。
肺炎にならないために
昨年末は例年になく温かく、風邪をひく患者さんが少なかったように思います。風邪というのは上気道、つまり「のどまでの感染」です。それに対して、のどより下(奥)が感染すると気管支炎や肺炎になります。風邪をひいて扁桃腺が腫れやすい人がよく「のどが弱いんです」と言いますけど、のどはウイルスや細菌の関所ですから、扁桃腺が腫れるというのはそこで止めているということです。そういう意味では、扁桃腺が腫れやすい人は免疫が強い、むしろ「のどが強い」とも言えます。扁桃炎といえば口の中から見える両脇の扁桃腺の炎症と思う方が多いのですが、鼻の奥の上咽頭にあるアデノイドという扁桃組織の炎症も多いのです。鼻呼吸をするとここが第一の関所となるからです。
肺炎というのは文字通り、肺に炎症が起きる病気です。風邪をひいたことがきっかけで肺炎を起こすこともある。特に高齢者は風邪やインフルエンザから肺炎を起こしやすい。例えばA型インフルエンザで肺炎を合併する割合は、80歳以上で13.3%、65~79歳で2.1%、16~64歳で0.8%という報告が出ています。高齢者ほど肺炎を起こしやすいのです。風邪やインフルエンザになると、ウイルスによってのどの線毛が炎症を起こしてダメージを受けます。すると異物を外に出す力が落ちてしまうので、後から来た細菌が気道の中に入ってしまう。下気道に細菌が侵入して気管支炎や肺炎を起こしてしまうのです。
高齢者の場合、風邪をひかずに最初から肺炎になることもあります。扁桃腺や線毛など、のどのバリアーが弱くなっているので、細菌に感染していきなり肺炎になってしまう。高齢になると高熱は出ないので、微熱と咳くらいで風邪だろうと思っていたら肺炎だったということは珍しくありません。
厚生労働省の「人口動態統計」によると、誤嚥性肺炎を入れると肺炎は日本人の死因第3位です。高齢者の場合、肺炎と誤嚥性肺炎を明確に区別するのは難しい。さらに言えば、死亡原因にある「老衰」も本当は肺炎だったかもしれません。高齢者は肺炎になっても高熱が出ないで微熱程度、または平熱のこともあるので要注意です。
年を取ると、のどの老化が進み、誤嚥をしやすくなる。自分で「のどの老化度」を知ることが重要です。反復唾液嚥下テスト、いわゆる「ゴックンテスト」があります。やり方は非常に簡単です。まず水を一口飲んで口の中を湿らせてから、「30秒間に何回唾液を飲み込めるか(空嚥下回数)」を見るだけです。若い人は10回くらいできるのですが、年を取ると筋力が衰え、唾液の分泌も減るため回数をこなすのが難しくなっていきます。20代で10回、30代で9回、40代で8回、50代で7回、60代で6回、70代で5回が「のど年齢」とするとわかりよい。のど年齢が70代以上、つまり30秒間で5回以下になると誤嚥性肺炎のリスクが高くなります。実際、高齢になると食事中にむせることも増えていくでしょう。
のどを鍛えて「のど年齢」を若返らせるにはどうすればいいのか。
日常会話も含めて、声を出すことがのどの老化を抑える上でとても大切です。声を出す力が弱くなると飲み込む力も弱くなり、のどの老化が進んで、むせやすくなります。好きな本でも新聞の社説でも何でも構わないので、声に出して読んでみるとよいです。
そして、忘れてはいけないのが「肺炎球菌ワクチン」と「口腔ケア」です。実は、肺炎の予防法としてエビデンス(科学的根拠)が高いものはこの2つです。のどを鍛えるのもいいですが、予防法としてこれに優るものはありません。肺炎球菌は肺炎の原因菌の中で最も多く、肺炎全体の3~4割程度を占めています。65歳になると、肺炎球菌ワクチン接種に対して自治体から助成が出ます。ワクチンを打っておけば、肺炎を発症した場合でも重症化を防げます。
もう1つは口腔ケアです。口腔ケアと肺炎は一見関係なさそうですが、実は誤嚥性肺炎を生じる肺炎球菌や嫌気性菌などは口の中にもいます。歯みがきで口中の細菌を減らせば、肺炎に感染するリスクもそれだけ低くなる。実際、2年間の口腔ケアによって、高齢者の肺炎死亡率が16%から7%に低下したという報告も出ています。夜間眠っているときに唾液が減って口の中の細菌が増えますから、少なくとも就寝前と起床直後に歯みがきを実践してください。できれば1日4回(朝起きたとき、朝食後、昼食後、寝る前)に歯をみがくのがお勧めです。