2020/07/07
病気からどうやって体を守るの?「免疫」の仕組み
細菌やウイルス、カビなどの病原体は体の中に入ると病気を起こし、ときに命を奪う。人だけでなく多くの生き物は外敵から体を守る仕組みをもち「免疫」と呼ばれている。紀元前のギリシャやインドでは、一度かかった病気には再びかかりにくくなることが経験的に知られていたという。病原体から体を守る免疫の現象に気がついていたようだ。
新型コロナウイルスの感染が拡大するなか、ウイルスなどの病原体から体を守る免疫の働きが改めて注目されている。人間は主に2段階の仕組みで病原体からの攻撃を防御しているが、新型ウイルスはこの攻撃を巧みにかいくぐり、病気を引き起こしている。
新型コロナウイルスの感染では、この自然免疫が注目されている。結核を予防する「BCG」というワクチンを接種する国で、新型コロナウイルス感染症の患者が少ないからだ。BCGが自然免疫の働きを高めているという。
現代の免疫学では外敵が体に侵入してきたら最初に働き始める「自然免疫」と、外敵に応じた攻撃をしかける「獲得免疫」の2種類が連動していると考えている。どちらも血液中にある「白血球」という細胞から生まれた様々な細胞が、それぞれ独自の役割を果たしている。
自然免疫では「好中球」や「マクロファージ」「樹状細胞」といった細胞が異物をとにかく食べまくる。分解して排除する。けがをした後に炎症が起きたりうみができたりする。傷口の細菌などを攻撃して起きる結果です。
獲得免疫では「T細胞」と「B細胞」の2つの細胞(リンパ球)が活躍する。特にT細胞は獲得免疫の司令塔とも呼ばれている。T細胞には「ヘルパーT細胞」や「キラーT細胞」などの仲間がある。ヘルパーT細胞は病原体を分解した樹状細胞から、どんな物質でできているのかという情報を手に入れていることがこれまでの研究で分かってきた。この情報をもとに、B細胞に対し病原体だけを攻撃する「抗体」というたんぱく質を作るように命令を出している。さらにマクロファージの活動もうながしている。キラーT細胞も樹状細胞からもらった情報をもとに、病原体に感染した細胞を見分けて攻撃をしかける。
このように自然免疫と獲得免疫が協調して外敵とたたかっている。免疫は医学の分野ではとても重要な役割を果たしている。ワクチンはその代表例といえる。まだ免疫の仕組みが分かっていなかった18世紀末、英国の医師のジェンナーは二度なし現象に関心を寄せ、医療に使えるようにした。当時の人たちは感染病の「天然痘(てんねんとう)」を非常におそれていた。ジェンナーは牛がかかる「牛痘」という天然痘によく似た病気がまれに人にうつり、牛痘になった人は天然痘にかからない話にヒントを得て、牛痘にかかった人から取ったうみを男児に注射してみた。男児は体調が少し悪くなったがすぐに回復し、次に天然痘にかかった人のうみを注射しても症状(しょうじょう)は全く出なかった。この実験が免疫学の始まりといわれている。
いまでは子どもたちがかかりやすい病気を中心に、様々なワクチンが実用化され、予防接種で感染を防ぐようにしている。
一方、人工的に抗体を作ってがんなどを治療する「抗体医薬」は、製薬会社の主力商品になっている。抗体はがん細胞にだけできるたんぱく質を目印に攻撃するので、従来の抗がん剤とはちがって正常な細胞を傷つけない。効果が高く副作用の少ない薬として広く使われている。2018年のノーベル賞の対象となった「がん免疫療法」は新しい応用例です。免疫が働かないように情報をやりとりする仕組みが見つかり、がん細胞がこれをうまく使っていることが分かった。情報伝達をたち切り、がん細胞を攻撃できるようにする抗体医薬が実用化した。体の中にある抗体を見つけて肥満や糖尿病(とうにょうびょう)などの生活習慣病を診断する新しい方法の研究も進んでいる。
免疫は暴走することも・・・
このように免疫はとてもよくできた仕組みです。しかしときに暴走することもある。もともと体の中にあった細胞や組織を外敵とまちがえて攻撃してしまう「自己免疫疾患」や、免疫が強く働きすぎて過剰な反応が起きる「アレルギー疾患」などです。
経済の本格的な再開には、有効な治療薬やワクチンの実用化が不可欠です。新型コロナは科学的に解明できていない部分も多く、実用化には時間がかかるかもしれません。
今使われている各種のワクチンは鶏卵などを使って1~2年かけて必要な量をまかなう備蓄用が中心です。新たなワクチンの開発や迅速投入に向けて生産技術を磨く米欧の製薬大手に比べ、日本は未知のウイルスへの対応力が試されています。ワクチンの開発には通常、治験などのために10年近くかかると言われています。各国政府は規制緩和など特例措置により早期開発を後押ししていますが、通常よりも開発期間が短いだけに副作用を含め安全性をどう確保するかも課題です。