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2024年10月

「ペプチド」 次世代の医薬品の本命か

複数のアミノ酸がつながった「ペプチド」と呼ばれる物質が注目を集めています。アミノ酸が50個以上結合した化合物が「たんぱく質」、50個未満のものは「ペプチド」と呼ばれます。
抗菌や鎮痛、血圧・血糖の調整など様々な作用を持ち、次世代医薬品の本命とみられています。ペプチドはアミノ酸がつながった比較的小さな化合物で鍵と鍵穴の関係のように、標的とする生体内にあるたんぱく質にうまく結合する特色があります。
中部大学発スタートアップの第1号として2022年に設立したペップイノーバ(名古屋市)は効率的に合成する技術でノーベル賞候補として注目される中部大学の山本尚卓越教授の研究成果の商用化を目的に発足しました。他にも大学発スタートアップを中心に創薬への応用が進んでいます。
ペプチドを作る方法は微生物の発酵作用を使う「生物合成」と、触媒などを使ってアミノ酸をつなげる「化学合成」の2通りがあります。従来、自在な組み合わせが可能な化学合成ではアミノ酸を1つずつつなげてペプチドを作っていましたが、結合プロセスは複雑で、時間とコストがかかっていました。山本教授は化学合成の効率を高めるために、2つのアミノ酸が輪っかのようにつながった環状の化合物を開発し、1カ所の結合を解いて2つのアミノ酸を一直線に伸ばし、結合させたいペプチドの基盤に鎖のように継ぎ足していく方法を確立しました。これにより効率的に狙い通りのペプチドを作ることを可能にしました。
従来の生物合成で生産するペプチド医薬品は鎮痛剤やホルモン剤が中心でした。特定の細胞に作用する複雑なペプチドの合成技術を確立できれば、国内の製薬企業と協力してがんや感染症分野の創薬に革命をもたらすと見込まれています。
東京大学発のバイオベンチャー企業のペプチドリームは、免疫の働きを改善してがん細胞を攻撃する抗体医薬として話題の「オプジーボ」をペプチドで置き換えようと共同研究中です。がん細胞の表面にあるたんぱく質「PD-L1」が標的とするオプジーボは点滴薬なので患者は通院する必要がありますがペプチドなら飲み薬になり、患者が家で治療できる可能性があります。またオプジーボは重い肝機能障害や肺炎などの副作用が報告されていますが、ペプチドは体内で比較的短時間で分解されるため、副作用を抑えられ良い多くの人に使えるようになります。
さらにペプチドリームは放射性物質を体内に投与してがんを治療する「放射性医薬品」の開発も行っています。正常な細胞は傷つけずにがん細胞を直接攻撃できる点が特徴です。この放射性医薬品はがんのたんぱく質を捉える物質と、放射性物質の2つから構造からなる。薬剤を注射や経口で投与してからは標的となる癌細胞のたんぱく質にくっつく。その後ミクロン単位の距離から放射線を直接当ててがん細胞を「狙い撃ち」する。外から放射線をあてる手法に比べ被曝量を小さくでき、正常な組織を傷つけるリスクを小さくできる利点がある。手術では難しい体の深部にある腫瘍にも対応できるため、大きな期待が寄せられている抗がん剤に並ぶ新たな治療薬となる可能性があります。
新潟大学の近藤英作教授らは膵臓がんの細胞の表面に多い受容体に付いて細胞内に入るペプチドに抗がん剤を付け、治療成績を改善しようとしています。
感染症対策にペプチドを使おうとする試みもある。従来の抗生物質に比べ細菌を効率よくたたく効果が出ています。
難治がんも治る時代がもうそこまで来ています。